『日本の科学者』(日本の科学者会議編/本の泉社)の今年2月号の特集は、「プラスチック問題を考える」だった。
読んで驚くのは寝屋川で起きた「事件」。リサイクル施設(4市の容器包装プラを選別・圧縮梱包する施設「かざぐるま」と、廃プラリサイクル工場)が稼働後、住民に化学物質過敏症の症状が現れた。そのため、住民や研究者が、地道に揮発性有機化合物の発生状況などの調査を繰り返し、証拠を集めたが、司法はそのような科学的証拠を無視して判決を下した。
裁判官が文系人間だっため、理系の証拠を理解できなかったのか。それとも、「プラスチックのリサイクルが悪いわけない」「被害は住民の思い過ごし」などの先入観念があったのではないかと思われる。
「かざぐるま」のような施設は、今や全国大半の自治体にある。住民から集めた容器包装プラスチックを選別し、圧縮梱包後、落札した再商品化工場のトラックが取りに来るまで保管しておく施設だ。このような身近などこにでもある施設の周辺でさえも、TVCO(総揮発性有機化合物)濃度は高く、深夜でも操業時の80%程度もあるそうだ。
つまり、廃プラを圧縮するなど力を加えていないときでも(単に積み上げているだけでも)廃プラからVOCが発生しているということだ。
選別・圧縮梱包施設でさえもVOCが発生するのだから、廃プラの解砕や熱風乾燥、加熱溶融、押出成形などを行う廃プラリサイクル工場からは、当然相当量のVOCが発生する。リサイクル工場ではさすがに押出成形機の排気だけは脱臭装置を通して排気筒から排出していたが、それ以外は処理せずに、そのまま通風窓や換気扇から放出していたという。
地形の関係もあり、排気されたVOCなどは、上空へはほとんど拡散せず、谷間の風によって住宅地へ流れていったようだ。
排気されたのはVOCだけでなく、他にもプラスチックから揮発した化学物質があったはずだ。杉並病の教訓は活かされていなかったということだ。リサイクル関係者の方々には、今後はぜひ杉並病と寝屋川病から教訓を得て、工場の設計や建設場所などを決めてほしい。
昨年4月に施行されたプラスチック新法により、新たなリサイクル施設が全国で次々と稼働を始めた。周辺住民に影響はないのか心配になる。リサイクルよりリデュースが大事だとかけ声はかけられているが、プラスチック生産量は増える一方だ。
先月発表されたミンデルー・モナコ委員会の報告は、「プラスチックは、そのライフサイクルのあらゆる段階で、病気、障害、早期死亡を引き起こす」と断じている。
https://www.pharmnews.com/news/articleView.html?idxno=220434
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36969097/
プラスチックを本当に減らすには、総量規制が必要であるにも関わらず、そのような話はまだ聞かない。プラスチック代替品、といいながらプラスチックを少しだけ減らしただけの製品も多い。
行政担当者の方々もこの本を読んで、安易にリサイクルを推進することの危険性を知ってほしいと思う。
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